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このガイドラインは誰に向けたものか

国土交通省は、令和3年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しました。背景には、令和2年2月から開かれた「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」での議論があります。ガイドラインは、不動産において過去に人の死が生じた場合に、その不動産の取引に際して宅地建物取引業者がとるべき対応について、宅地建物取引業法上負うべき義務の解釈を、トラブルの未然防止の観点から整理したものだと説明されています。適用範囲についても限定があり、ガイドラインが取り扱うのは住宅として用いられる不動産、すなわち居住用不動産です。オフィス等として用いられる不動産で発生した事案は、契約締結の判断に与える影響が一様でないことから対象外とされ、取引当事者の意向を踏まえつつ適切に対処する必要があるとされています。

ここで大事なのは主語です。このガイドラインが名宛人としているのは、売主となる宅地建物取引業者や、媒介・代理を行う宅地建物取引業者であって、個人の売主・貸主の義務を直接定めたものではありません。もっとも、ガイドラインは、売主・貸主による告知が適切に行われることが重要だとしたうえで、実際の取引では専門家である宅地建物取引業者を通じて買主・借主に伝えられることが多数を占めると述べています。つまり、あなたが不動産会社に伝えた内容が、そのまま買主に届く情報の出発点になります。

ガイドライン自体も、自分の位置づけについて慎重な書き方をしています。宅地建物取引業者がガイドラインで示した対応を行わなかった場合、そのことだけをもって直ちに宅地建物取引業法違反となるものではないが、対応をめぐってトラブルとなった場合には、行政庁における監督に当たって参考にされることとなる、とされています。

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心理的瑕疵は時間とともにどう扱われるのか

物理的な欠陥がなくても、過去に人の死があったことが買い手や借り手の気持ちに影響し、取引の判断を左右することがあります。これがいわゆる心理的瑕疵と呼ばれるものです。ガイドラインは、人の死が心理的瑕疵に該当するかや、その継続性の評価は、事案の態様・周知性等や、その物件の立地等の特性によって異なり、時代や社会の変化に伴い変遷する可能性もある、と述べています。

さらに、心理的瑕疵は時間の経過とともに希釈され、やがて消滅するとの裁判例もあること、そして不動産取引における人の死に関する事案の評価は買主・借主の個々人の内心に関わる事項であり、取引の判断にどの程度の影響を及ぼすかは当事者ごとに異なるものである、とも書かれています。ここが、この分野に「何年経てば大丈夫」という一律の答えを置けない理由です。

ガイドライン自身も、これはあくまで現時点で妥当と考えられる一般的な基準であり、将来において示した基準が妥当しなくなる可能性も想定される、として、新たな裁判例や取引実務の変化、社会情勢や人々の意識の変化に応じて適時に見直しを行うとしています。読むときは、確定した規則としてではなく、裁判例の蓄積が限られるなかで可能な範囲でまとめられた整理として受け取るのが正確です。

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自然死と日常生活の中での不慮の死の扱い

ガイドラインは、宅地建物取引業者が告げなくてもよい場合を整理しています。その一つめが、賃貸借取引および売買取引の対象不動産において自然死または日常生活の中での不慮の死が発生した場合です。老衰や持病による病死などのいわゆる自然死については、そのような死が居住用不動産について発生することは当然に予想されるものであり、統計においても自宅における死因割合のうち老衰や病死による死亡が9割を占める一般的なものである、と説明されています。

また、事故死に相当するものであっても、自宅の階段からの転落や、入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で生じた不慮の事故による死については、そのような死が生ずることは当然に予想されるものであり、買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いと考えられることから、賃貸借取引および売買取引いずれの場合も、自然死と同様に、原則としてこれを告げなくてもよいとされています。

ここには重要な例外が付いています。自然死や日常生活の中での不慮の死が発生した場合であっても、過去に人が死亡し、長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、いわゆる特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合においては、買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられる、として、別の取扱いに従うこととされています。亡くなり方そのものより、その後に何が行われたかで扱いが変わる、という点を押さえてください。

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賃貸と売買で異なる、期間の目安の位置づけ

「概ね3年」という数字を見聞きしたことがあるかもしれません。これはガイドラインに実際に出てくる目安ですが、置かれている場所を取り違えると誤解になります。この目安が示されているのは、賃貸借取引の対象不動産において、自然死等以外の死が発生した場合、または自然死等が発生して特殊清掃等が行われた場合についてです。過去の裁判例等を踏まえ、特段の事情がない限り、これを認識している宅地建物取引業者が媒介を行う際には、その死が発生し、または特殊清掃等が行われることとなった死が発覚してから概ね3年間を経過した後は、原則として借主に対してこれを告げなくてもよい、という整理になっています。

一方で、売買取引について、ガイドラインは同じような年数の基準を置いていません。売買取引で告げなくてもよいと整理されているのは、対象不動産で自然死等が発生した場合(特殊清掃等が行われていない場合)と、取引の対象ではない隣接住戸や、買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で事案が起きた場合です。後者は経過年数ではなく、事案が起きた場所による整理であり、この場合も事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案は除かれます。つまり、自分が売ろうとしている住まいそのもので起きた事案について、「3年経ったから売買でも言わなくてよい」とは、ガイドラインから読み取れません。

なお、借主が日常生活において通常使用する必要があり、住み心地の良さに影響を与えると考えられる集合住宅の共用部分は、賃貸借取引の対象不動産と同様に扱うとされています。ベランダ等の専用使用が可能な部分のほか、共用の玄関・エレベーター・廊下・階段のうち通常使用すると考えられる部分が該当する、と注記されています。

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期間を問わず告げる必要があるとされる場面

告げなくてもよいとされる場合には、いずれも歯止めが置かれています。隣接住戸や通常使用しない共用部分についての取扱いには、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではない、という但し書きが付いています。賃貸借取引の概ね3年の目安にも、同じく、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではない、と書かれています。

さらに、買主・借主から問われた場合の扱いが別に定められています。人の死に関する事案の発覚から経過した期間や死因にかかわらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、その社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等には、当該事案は取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるため、調査を通じて判明した点を告げる必要がある、とされています。

告げなくてもよいとされる類型に当てはまらない場合は、宅地建物取引業者は、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、買主・借主に対してこれを告げなければならない、というのが原則です。告げる内容は、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合には発覚時期)、場所、死因、そして特殊清掃等が行われた場合にはその旨とされ、死因が不明である場合にはその旨を告げれば足りるとされています。

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売主として、不動産会社に何を伝えるか

ガイドラインは、宅地建物取引業者の調査について、人の死に関する事案が生じたことを疑わせる特段の事情がないのであれば、自発的に調査すべき義務までは宅地建物取引業法上認められない、としています。そのうえで、媒介を行う宅地建物取引業者においては、売主・貸主に対して告知書(物件状況等報告書)その他の書面に過去に生じた事案についての記載を求めることにより、媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする、と整理されています。

つまり、実務の流れとしては、あなたが記入する告知書が調査の中心に置かれています。ガイドラインは、告知書等に記載されなかった事案の存在が後日判明しても、その宅地建物取引業者に重大な過失がない限り、調査は適正になされたものとする、とも述べています。ここから分かるのは、書かなかったことの影響が、会社ではなく売主側に向かいやすい構造になっている、ということです。

ガイドラインは、媒介を行う宅地建物取引業者が、売主・貸主に対し、事案の存在について故意に告知しなかった場合等には、民事上の責任を問われる可能性がある旨をあらかじめ伝えることが望ましい、としています。具体的にどのような結論になるかは、依頼内容や締結される契約の内容等によって個別に判断されるものであり、ここで先回りして決めつけることはできません。迷う事情があるなら、隠すのではなく、時期・場所・分かっている経緯を整理して担当者に伝え、告知書にどう書くかを一緒に相談するのが、結果として自分を守る進め方です。

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ガイドラインに従えば安心、とはされていないこと

ガイドラインは、民事上の責任について明確に線を引いています。個々の不動産取引において人の死の告知に関し紛争が生じた場合の民事上の責任については、取引当事者からの依頼内容、締結される契約の内容等によって個別に判断されるべきものであり、宅地建物取引業者がガイドラインに基づく対応を行った場合であっても、その宅地建物取引業者が民事上の責任を回避できるものではないことに留意する必要がある、と書かれています。

行政上の扱いについても同様で、ガイドラインで示した対応を行わなかったことだけをもって直ちに宅地建物取引業法違反となるものではない一方、トラブルとなった場合には行政庁の監督に当たって参考にされる、という位置づけです。「ガイドラインに沿ったから大丈夫」でも「外れたから違反」でもない、という中間的な性格を持っています。

また、ガイドラインが扱っていない領域もはっきり書かれています。人の死が生じた建物が取り壊された場合の土地取引の取扱いや、搬送先の病院で死亡した場合の取扱い、転落により死亡した場合における落下開始地点の取扱いなどは、一般的に妥当と整理できるだけの裁判例や取引実務の蓄積がなく、現時点では対象としていない、とされています。自分の事情がこれらに当たるときは、ガイドラインだけでは答えが出ないと考え、専門家に相談する場面です。

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告げるときに配慮すべきこと

告げることと、亡くなった方の情報をすべて明かすことは別です。ガイドラインは、告げる際には、亡くなった方やその遺族等の名誉および生活の平穏に十分配慮し、これらを不当に侵害することのないようにする必要があることから、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はない、としています。遺族として、ここまで話さなければいけないのかと感じたときの拠りどころになります。

調査の段階についても、近隣住民等の第三者に対する調査や、インターネットサイトや過去の報道等に掲載されている事項に係る調査については、正確性の確認が難しいことや、亡くなった方やその遺族等の名誉および生活の平穏に十分配慮する必要があることから、特に慎重な対応を要する、と注意が促されています。

伝え方についても、買主・借主に事案の存在を告げる際には、後日のトラブル防止の観点から、書面の交付等によることが望ましい、とされています。口頭でのやり取りだけで終わらせず、どう書面化されたかを自分でも確認しておくと、後から「言った・聞いていない」になりにくくなります。

相談の前に確かめるチェックリスト

  • 亡くなった経緯が自然死・日常生活の中での不慮の死に当たるか、事実関係を時系列で整理する。
  • その後に特殊清掃や大規模リフォームが行われたかどうかを、記録や請求書で確かめる。
  • 売買なのか賃貸なのかを確認し、賃貸の目安である年数を売買にそのまま当てはめていないか点検する。
  • 告知書(物件状況等報告書)に、発生時期・場所・分かっている死因をどう書くか担当者と相談する。
  • 買主から問われたときにどう答えるかを、契約前に不動産会社と取り決めておく。
  • 自分の事案がガイドラインの対象外(建物取壊し後の土地など)に当たらないかを確かめる。
制度の一般的な考え方をまとめたものです。実際の取扱いは契約の内容や個別の事情によって変わります。判断が必要な場面では、不動産会社や専門家、行政の相談窓口にご確認ください。