査定価格・売出価格・成約価格は別のもの
売却を考えはじめて最初に受け取る数字が、査定価格です。これは不動産会社が、その物件がどのくらいの期間でどのくらいの金額なら売れそうかを見通して示した金額です。見通しである以上、そこには前提があります。前提とは、どの事例と比べたか、どのくらいの売却期間を想定したか、建物の傷み具合をどう見たか、といったことです。前提が変われば金額も変わります。査定価格は、その金額で買い手が現れることを約束するものではありません。
次に決めるのが売出価格です。これは売主が「この金額で売りに出します」と決める、広告に載る金額です。査定価格をそのまま使うこともあれば、少し高めから始めることも、早く売りたいので低めにすることもあります。決めるのは売主自身で、不動産会社が決めるものではありません。
最後に残るのが成約価格です。実際に買主と合意して売買契約が成立した金額で、値引き交渉を経て売出価格より下がることも、条件が整って近い金額でまとまることもあります。世の中に公開されている「実際の取引価格」は、この成約価格にあたります。三つは段階も決める人も違うので、まずこの区別を持っておくと、査定書に書かれた金額の意味を取り違えずに読めます。
公的に確認できる価格には種類がある
不動産の価格として公表されているものは一つではありません。国土交通省がまとめている主な公的土地評価の一覧では、地価公示、都道府県地価調査、相続税評価(路線価)、固定資産税評価が並べて整理されています。それぞれ所管する機関も、価格の時点も、そもそも何のための価格なのかも違います。
地価公示は国土交通省の土地鑑定委員会が毎年1月1日時点で、都道府県地価調査は都道府県知事が毎年7月1日時点で、いずれも標準的な土地についての正常な価格を一般に示すものです。相続税評価(路線価)は国税庁・国税局長が毎年1月1日時点で定め、相続税の申告に使われます。固定資産税評価は総務省・市町村長が1月1日時点で定め、3年に1度評価替えが行われます。
つまり、同じ土地についていくつもの「価格」が並存しています。どれが正しくてどれが間違っているという話ではなく、使う目的が違うだけです。査定価格を検証するときは、目的の近いものから順に見ていくのが筋になります。実際の売買にいちばん近いのは、当然ながら実際の取引価格です。
実際の取引価格を不動産情報ライブラリで見る
国土交通省の不動産情報ライブラリ(https://www.reinfolib.mlit.go.jp/)は、不動産の取引価格や地価公示等の価格情報のほか、防災情報、都市計画情報、周辺施設情報などを見られるウェブサイトです。地図の上に情報を重ねて表示できるため、住所から自分の物件の周辺を探し、近くでどのくらいの価格の取引があったのかをたどることができます。国土交通省の説明では、特別なソフトを必要とせず、パソコンだけでなくスマートフォンやタブレットからの閲覧にも対応しているとされています。なお、取引価格情報は令和6年3月末までは土地総合情報システムで提供されており、令和6年4月以降は不動産情報ライブラリに掲載されています。古い案内で前の名前を見かけたときは、こちらを探してください。
ここに載っている取引価格情報は、不動産取引価格情報提供制度によるものです。国土交通省の説明によれば、これは誰でも安心して不動産の取引を行えるように実際の取引価格情報を蓄積して提供する国の制度で、平成18年4月から不動産取引当事者へのアンケート調査をもとに情報を積み上げてきました。実際に行われた取引の価格ですから、机上の推計ではありません。
ただし読み方には注意が要ります。個人情報を守るため、回答者の氏名や会社名は削除され、所在地は町・大字のレベルまで、取引価格は有効数字2桁にまとめられています。土地の面積や形状、建物の用途・構造、床面積、建築年などは載りますが、あなたの物件と条件がそっくり同じ事例がそのまま見つかるとは限りません。あくまで「この地域ではこのくらいの水準で取引が成立している」という幅をつかむための材料だと考えてください。また、アンケートに基づく制度なので、すべての取引が載っているわけではない点も押さえておきたいところです。
地価公示・都道府県地価調査で土地の水準をつかむ
取引事例が少ない地域では、地価公示や都道府県地価調査が手がかりになります。これらは選ばれた標準的な土地について、正常な価格を一般に示すものです。個々の売買には売り急ぎや買い進みといった個別の事情が混じりますが、地価公示等はそうした事情を除いた標準的な水準を示すという性格を持っています。だからこそ、取引事例が散らばって見えるときの「ものさし」になります。
地価公示は毎年1月1日時点の価格が3月に、都道府県地価調査は毎年7月1日時点の価格が9月に公表されます。年に2回、時点の違う水準が出るので、地価が動いている時期には、半年ごとの変化の向きを読むこともできます。これらも不動産情報ライブラリの地図から確認できます。
注意したいのは、地価公示等はあくまで「標準地・基準地」という特定の地点の、しかも土地の価格だという点です。あなたの土地は道路との接し方も形も広さも違いますし、建物が建っていればその価値も加わります。標準地の単価に自分の土地の面積を掛けただけの数字は、売れる金額ではありません。水準を確かめるために使い、金額そのものを断定するためには使わない、という距離の取り方が現実的です。
路線価と固定資産税評価額は税のための価格
国税庁の路線価図・評価倍率表(https://www.rosenka.nta.go.jp/)は、財産評価基準書として公開されています。ここでいう路線価は、相続税や贈与税で土地を評価するために定められた価格です。国税庁の説明では、路線価方式は路線価が定められている地域の土地を評価する方法で、路線価はその道路に面している標準的な宅地の1平方メートル当たりの千円単位の価額とされています。路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を掛ける倍率方式が使われます。
固定資産税評価額は、市町村長が定める固定資産税の課税のための価格です。こちらは毎年は動かず、原則として3年に1度の評価替えが行われます。手元の納税通知書や課税明細書で確認でき、市町村の窓口で評価証明を取ることもできます。
この二つは、売買価格そのものではありません。国土交通省の公的土地評価の一覧では、評価の水準として、相続税評価(路線価)は平成4年以降は地価公示の水準の8割程度、固定資産税評価は平成6年以降は地価公示の水準の7割程度と整理されています。あくまで評価水準の目安であって、この割合で割り戻せば売れる金額が出るという性質のものではありません。税のための価格を売買の相場と読み替えてしまうと、査定額が不当に低い、あるいは高いという誤った印象を持ちやすくなります。目的の違う物差しだと理解したうえで、参考の一つに留めてください。
価格を求める手法と、媒介の価格査定の違い
不動産の価格を求める専門的な手法は、国土交通省の不動産鑑定評価基準に定められています。基準では、不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な手法は原価法、取引事例比較法、収益還元法に大別されるとしています。原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って試算価格を求める手法です。取引事例比較法は、多数の取引事例を集めて適切な事例を選び、事情補正や時点修正を行い、地域要因や個別的要因を比較して試算価格を求める手法です。収益還元法は、対象不動産が将来生み出すと期待される純収益の現在価値の総和を求める手法で、賃貸用不動産などで特に有効とされています。
ここで区別しておきたいのは、不動産鑑定士が行う不動産鑑定評価と、不動産会社が媒介にあたって行う価格査定は、別のものだということです。国土交通省が示した売却の媒介委託者向けの説明では、不動産の売却の流れとして物件調査・価格査定・媒介契約の締結といった手順が並び、不動産鑑定評価は「売却に関連する行為」として別に挙げられています。媒介の価格査定は、売却の見通しを立てるために不動産会社が行うもので、鑑定評価書のような正式な評価書とは位置づけが異なります。
とはいえ、考え方の土台は共通しています。住宅の査定でよく使われるのは取引事例比較法の考え方で、近い条件の事例を集め、時期や条件の違いを補正して比べていきます。査定書を読むときは、どの事例を選び、何をどう補正したのかを追えるかどうかが、質を見分ける手がかりになります。
根拠の説明を求めてよい、という制度上の裏づけ
査定額の根拠を尋ねるのは、遠慮の要ることではありません。宅地建物取引業法第34条の2第2項は、宅地建物取引業者は、宅地又は建物を売買すべき価額又は評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない、と定めています。根拠を示すことは業者側の義務として法律に書かれているのです。
その根拠として何が想定されているかも、国土交通省の宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方で示されています。意見の根拠としては、価格査定マニュアル(公益財団法人不動産流通推進センターが作成した価格査定マニュアル又はこれに準じた価格査定マニュアル)や、同種の取引事例等、他に合理的な説明がつくものであることとする、とされています。つまり、事例や手法にさかのぼって説明できることが求められています。
ですから「長年の経験からこのくらいです」という説明だけで終わったとき、もう一歩踏み込んで「どの事例と比べたのか」「なぜその金額に補正したのか」を尋ねるのは、当然の確認です。誠実な担当者であれば、比較した事例の場所・時期・面積・価格と、あなたの物件との違いをどう見たかを説明してくれるはずです。その説明を、不動産情報ライブラリで自分が見た取引価格情報と突き合わせれば、話の筋が通っているかどうかを自分の目で確かめられます。
複数社の査定額が違うときの読み解き方
複数社に頼むと、金額がそろわないのが普通です。査定価格は将来の見通しであり、どの事例を選ぶか、どのくらいの期間で売る想定か、建物の状態をどう評価するかで結果が変わるからです。したがって、金額が違うこと自体は不自然ではありません。問題は、なぜ違うのかを説明できるかどうかです。
ここで気をつけたいのが、いちばん高い金額を出した会社を選びたくなる気持ちです。査定価格は売れることが保証された金額ではありませんから、高い査定額は「高く売れる約束」ではなく「高めの見通し」にすぎません。実際、高い売出価格から始めて売れ残り、時間をかけて値下げしていくと、結果として早めに適正な価格で出した場合より低い金額で落ち着くこともあります。売却には期限や住み替えの事情が絡むことが多く、時間の損失は金額以上に重くのしかかることもあります。
判断の軸は金額の大小ではなく、根拠の確かさに置くのが安全です。三社から数字が出たら、それぞれに同じ質問をしてみてください。比較した取引事例はどれか、その事例と自分の物件の違いをどう補正したか、この金額で売るとしたらどのくらいの期間を見込んでいるか、その期間内に売れなかったときはどうする想定か。この四つに落ち着いて答えられる会社は、価格の性質をきちんと理解して仕事をしています。逆に、根拠を聞いたときに話をそらしたり、契約を急がせたりする相手には、いったん間を置いてよいと思います。
自分で裏を取るときの進め方
順番としては、まず不動産情報ライブラリで自分の物件の周辺を地図で開き、取引価格情報を見て、同じような広さ・築年の取引がどのくらいの価格帯にあるかをつかみます。価格は有効数字2桁、所在は町・大字レベルですから、点ではなく幅で捉えてください。次に、同じ地図上で地価公示や都道府県地価調査の地点を確認し、その地域の土地の水準を押さえます。
そのうえで、手元の固定資産税の課税明細書や、国税庁の路線価図を見ておくと、税のための価格がどのくらいの水準にあるかも分かります。繰り返しになりますが、これらは課税のための価格で、売買価格そのものではありません。混同しないために、メモを取るときは「何のための価格か」を必ず書き添えておくとよいと思います。
ここまで自分で見ておくと、査定書を受け取ったときの読み方が変わります。会社が挙げた事例が、自分が見た取引価格情報の幅の中に収まっているか。極端に高い事例だけを選んでいないか。建物の評価をどう置いているか。専門家と対等に話すためではなく、納得して決めるために調べるのだと考えれば、気持ちも少し楽になるはずです。分からないところは、分からないと伝えて聞き直してかまいません。
相談の前に確かめるチェックリスト
- 不動産情報ライブラリで、自分の物件周辺の取引価格情報を地図から確認した
- 同じ地図で地価公示・都道府県地価調査の地点と価格水準を見ておいた
- 路線価と固定資産税評価額が、課税のための価格であることを理解したうえで確認した
- 査定書に、比較した取引事例とその補正の考え方が書かれているか確かめた
- 各社に売却想定期間と、売れなかった場合の想定を同じ質問で尋ねた
- 金額の高さではなく、根拠の説明の筋道で会社を比べた



