広告のルールは、一つではなく重なっている
部屋探しをしていると、「この条件でこの家賃はおかしいのでは」と感じる広告に出会うことがあります。そうしたとき、不動産の広告がまったくの野放しなのかというと、そうではありません。ただし、ルールが一本にまとまっているわけでもありません。実際には、宅地建物取引業法という法律が不動産会社に直接課している義務と、景品表示法に基づいて国が指定した告示、そして業界が自主的に設定して認定を受けた公正競争規約という、性格の違う三つの層が重なっています。
この三つは、守らせる仕組みも違います。宅地建物取引業法は免許を出している国や都道府県が監督し、違反には罰則もあります。景品表示法の告示は消費者庁が所管する不当表示の指定です。公正競争規約は、業界団体である不動産公正取引協議会が運用します。どの層の話をしているのかを分けて理解しておくと、自分が納得できないときにどこへ持っていけばよいのかも見えやすくなります。
以下では、この三つの層をそれぞれ見ていきます。順番としては、もっとも強い効力を持つ宅地建物取引業法から押さえておくのが分かりやすいはずです。
宅地建物取引業法が広告そのものに課している義務
宅地建物取引業法第32条は、宅地建物取引業者が業務に関して広告をするときに、宅地や建物の所在、規模、形質、現在または将来の利用の制限、環境や交通その他の利便、代金や借賃等の対価の額や支払方法などについて、著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく優良・有利であると人を誤認させるような表示をしてはならないと定めています。これが誇大広告等の禁止と呼ばれる規定です。
この規定には罰則が付いています。同法第81条第1号は、第32条の規定に違反した者を六月以下の拘禁刑もしくは百万円以下の罰金に処し、またはこれを併科すると定めています。免許行政庁による業務停止などの監督処分とは別に、刑事罰の対象にもなりうるということです。広告は軽い話ではない、という位置づけがここに表れています。
広告に関する義務は第32条だけではありません。第33条は広告の開始時期を制限しており、工事の完了前の宅地または建物については、都市計画法に基づく開発行為の許可や建築基準法の建築確認など、法令に基づく所定の許可等の処分があった後でなければ広告をしてはならないとしています。第34条は取引態様の明示義務で、事業者は広告をするときに、自らが契約の当事者となるのか、代理人として行うのか、媒介するのかの別を明示しなければならず、注文を受けたときにも遅滞なくその別を明らかにしなければなりません。広告に「媒介」「貸主」といった表記があるのは、この規定に基づくものです。
おとり広告として禁じられている三つのかたち
おとり広告については、景品表示法の側にも指定があります。消費者庁が掲載している「不動産のおとり広告に関する表示」は、景品表示法第5条第3号に基づく不当表示の指定で、昭和55年公正取引委員会告示第14号として定められたものです。ここに、禁じられる広告の三つのかたちが並んでいます。
第一に、取引の申出に係る不動産が存在しないため、実際には取引することができない不動産についての表示。実在しない住所や地番を載せた物件が、これにあたります。第二に、取引の申出に係る不動産は存在するが、実際には取引の対象となり得ない不動産についての表示。すでに成約済みで、もう貸せない部屋を載せている場合です。第三に、取引の申出に係る不動産は存在するが、実際には取引する意思がない不動産についての表示。問い合わせた人に別の物件ばかりを勧め、その物件の取引には応じない場合が、消費者庁の説明では例として挙げられています。
同じ三類型は、不動産の表示に関する公正競争規約(平成17年公正取引委員会告示第23号)第21条にも、おとり広告として置かれています。告示と規約が同じ線を引いているかたちです。三つを並べてみると、共通しているのは「その広告を見て連絡した人が、実際にはその物件にたどり着けない」という点です。物件が実在するかどうかよりも、広告を入り口として取引に進めるかどうかが問われている、と読むことができます。
「決まりました」と言われたとき、どこまでが違反になるのか
問い合わせた翌日に物件の掲載が消えていた、来店したら「昨日決まりました」と言われた。そうした経験をすると、だまされたのではないかという気持ちになります。ここで押さえておきたいのは、国土交通省がこの点について具体的な考え方を示している、ということです。
国土交通省不動産・建設経済局不動産業課長が令和5年1月12日付で各業界団体の長あてに発出した通知「いわゆる『おとり広告』等の禁止の徹底について」(国不動指第80号)は、第32条により、顧客を集めるために売る意思のない物件を広告し実際は他の物件を販売しようとするおとり広告と、実在しない物件等の虚偽広告が禁止されていることを示したうえで、該当する具体例を挙げています。そこでは、成約済みの物件を速やかに広告から削除せずにインターネット広告等を掲載し続けることや、広告掲載当初から取引の対象となり得ない成約済みの物件を継続して掲載することは、おとり広告に該当するとされています。つまり、削除が遅れたという事情そのものが、免罪符になるわけではありません。
同じ通知では、実際には取引する意思のない物件を、合理的な根拠なく「相場より安い賃料・価格」等の好条件で広告して来店等を促したうえで、他者による成約や、生活音がうるさい・突然の水漏れが生じた・治安が悪いといった事実ではないことを理由に他の物件を紹介・案内することも、おとり広告に該当するとされています。案内された理由に具体性がなく、毎回まったく別の条件の部屋を勧められるなら、この類型に近いということです。
ここで誤解しないでおきたいのは、繰り返されていなければ問題にならない、というわけではないことです。告示が挙げる類型も、上記の通知が挙げる具体例も、掲載していた行為そのものを問題にしています。すでに取引の対象になり得ない物件を一度掲載していた、という一件でも、おとり広告に当たると判断されうるということです。ですから、同じことが何度も起きるまで待つ必要はありません。気になった時点で、後で触れる相談先に持っていってかまいません。
そのうえで、実際にどう評価されるかは個別の事情によって変わります。賃貸の募集は複数の会社が同じ部屋を扱うことも多く、判断の材料は多いほど確かになります。掲載画面、問い合わせた日時、どう答えられたか。これらを日時の分かる記録として残しておくと、相談したときに話が具体的に進みます。記録は、相談を先延ばしにする理由ではなく、相談を実のあるものにするための準備だと考えてください。
広告を見た時点で、自分の手で確かめられること
広告のルールを知っていても、それだけで良い部屋が見つかるわけではありません。役に立つのは、問い合わせの仕方が変わることです。まず、いつ時点の募集情報なのかを尋ねてみてください。規約に基づく表示事項として、不動産公正取引協議会連合会は物件種別ごとの表示事項一覧表を公開しており、広告には本来、書かれているべき項目があります。書かれているべき項目が抜けている広告は、ルールに照らして確認の余地があるということです。
取引態様の表記も見ておく価値があります。第34条で明示が義務づけられている項目ですから、それが見当たらない広告は、その時点で法律上の義務を満たしていない可能性があります。問い合わせのときに「貸主ですか、媒介ですか」と聞けば答えられるはずの話です。
次に、その部屋を実際に内見できるか、いつなら見られるかを、最初の問い合わせで具体的に聞いてみます。日時の話に進めるかどうかは、その物件が本当に取引の対象になっているかを測る、いちばん素直な手がかりです。答えが曖昧なまま来店だけを勧められるときは、その場で決めずに一度持ち帰ってかまいません。
そして、やりとりは記録に残しておきます。掲載画面のスクリーンショット、問い合わせた日時、どう返答されたか。これは相手を疑うためというより、あとで相談するときに、自分の記憶だけを頼りにしなくて済むようにするためのものです。
公正競争規約は、法律とどう違うのか
三つ目の層が公正競争規約です。景品表示法第36条第1項は、事業者または事業者団体が、内閣府令で定めるところにより、景品類または表示に関する事項について、内閣総理大臣および公正取引委員会の認定を受けて、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択および事業者間の公正な競争を確保するための協定または規約を締結し、または設定することができると定めています。消費者庁はこれを、公正取引委員会および消費者庁長官の認定を受けて事業者または事業者団体が自主的に設定する業界のルールだと説明しています。
ここで誤解しないでおきたいのは、規約そのものは法律ではない、ということです。あくまで業界の自主規制であり、行政の認定という手続きを通っている点に特徴があります。消費者庁は規約制度の目的について、不当な表示や過大な景品類の提供による競争を防止し、業界大多数の良識を商慣習として明文化し、この商慣習を自分も守れば他の事業者も守るという保証を与え、とかくエスカレートしがちな不当表示や過大な景品類の提供を未然に防止するところにあると説明しています。あとから取り締まるだけでなく、未然に防ぐという発想が中心に置かれています。
不動産の分野では「不動産の表示に関する公正競争規約」がこれにあたり、業界団体である不動産公正取引協議会連合会が規約と施行規則の本文を公開しています。違反があったときにまず動くのは、規約を運用する各地区の協議会です。法律違反として行政処分を求める話とは、経路が別だと考えてください。
納得できないとき、どこに相談すればよいか
不動産広告について相談したいとき、窓口は複数あります。広告表示そのものについては、不動産公正取引協議会連合会が自らのサイトで、不動産広告の相談等は各地区の不動産公正取引協議会へ問い合わせるよう案内しており、連合会自体は相談等の受付を行っていないと明記しています。つまり、全国組織ではなく、お住まいの地区の協議会が相談先になります。
一方で、宅地建物取引業法の義務に関わる話であれば、その会社に免許を出している行政庁、つまり都道府県の宅地建物取引業を担当する窓口や、国土交通大臣免許の業者であれば地方整備局等が監督にあたります。誇大広告等の禁止は法律上の義務ですから、こちらの経路もあるということです。
相談するときは、何がどう違っていたのかを、できるだけ具体的に伝えられると話が早く進みます。どのサイトの、いつの掲載で、どの条件が載っていたのか。問い合わせたのはいつで、どう答えられたのか。前の節で残しておいた記録が、ここで生きてきます。なお、規約や告示に照らしてどう評価されるかは個別の事情によって変わり、伝えたからといって必ず何らかの措置が取られると約束されているわけではありません。それでも、同じ広告について複数の人から情報が寄せられることには意味があります。
ルールを知ることは、疑うためではなく落ち着くため
広告のルールを知ると、かえって不動産会社を疑う目つきになってしまう人がいます。けれども、ここまで見てきたとおり、ルールが線を引いているのは「取引できない物件を入り口に使うこと」や「著しく事実と違う表示をすること」であって、条件の良い部屋がすぐ埋まることそのものではありません。賃貸の市場では、良い条件の部屋が数日で決まっていくのは、ごく普通に起きることです。
むしろ落ち着いて動くために効くのは、判断の順番を決めておくことです。広告で条件と取引態様を確認し、問い合わせで取引の対象になっているかを確かめ、内見で実物を見て、そのうえで条件を詰める。この順番を崩さなければ、急かされて決める場面は自然に減っていきます。
そして、契約に進んだあとには、原状回復や退去時の精算といった別の論点が待っています。広告の段階で見ておきたいのは、家賃や初期費用だけでなく、退去のときにどういう負担が生じうるのかという見通しまで含めた全体像です。入り口の広告だけで判断せず、出口まで見通したうえで相談できる相手を持っておくと、部屋探しはずいぶん楽になります。
相談の前に確かめるチェックリスト
- 広告に載っている募集条件が、いつ時点の情報なのかを問い合わせで確認する
- 広告に取引態様(貸主・代理・媒介)の別が明示されているかを確かめる
- その部屋を実際に内見できるか、日時まで具体的に決められるかを最初に聞く
- 掲載画面と問い合わせ日時、返答の内容をスクリーンショットとメモで残しておく
- 気になることがあれば、繰り返しを待たずに記録を添えて相談窓口に持ち込む
- 広告表示は地区の不動産公正取引協議会、法律上の義務は免許行政庁と、相談先を分けて考える
- 契約前の広告だけでなく、退去時の原状回復の負担まで見通して比べる


