諸費用が一つの窓口で出そろわない理由
物件価格のほかにかかるお金を、まとめて「諸費用」と呼びます。ただしこれは一つの制度の名前ではありません。国が課す税、都道府県が課す税、市町村が課す税、法務局に対して行う手続、そして相手方と交わす契約に基づく費用が、購入という一つの場面でたまたま同時に発生しているだけです。だから「諸費用の正確な金額をどこかに問い合わせれば一度に分かる」という窓口は、そもそも存在しません。
この構造が分かっていないと、不動産会社にすべてを尋ねて、返ってきた概算をそのまま総額として受け取ってしまいがちです。不動産会社は取引の全体像を知っている相手ですから、見積もりを出してもらうこと自体は自然なことです。けれども、税の金額を最終的に決めるのは課税する側であって、仲介する会社ではありません。役割の違いを踏まえたうえで、どの数字を誰に確かめ直すのかを自分で割り当てておくと、話が食い違ったときに立ち戻る場所が持てます。
この記事では、金額の相場ではなく「何の費用で、誰が所管し、どこに聞けば確かな数字が出て、いつ確定するのか」という対応関係だけを扱います。税率や軽減の細かい要件は、制度改正で内容が変わりうる部分ですから、必ず所管する官庁の公表資料にあたって確かめてください。
登記の手続そのものは法務局に確かめる
買った土地や建物の名義を自分に移す手続が、不動産登記です。これを扱っているのは法務局で、法務局は専門的な知識をお持ちでない方に対して、登記申請書の作成等に必要な情報の提供を行う「登記手続案内」を設けています。法務局の案内によれば、利用時間は一回当たり二十分以内で、完全予約制とされています。電話・対面・ウェブ会議サービスから方法を選べるとも案内されています。
ここで押さえておきたいのは、案内の対象が「手続の進め方」であって、取引全体の損得や個別の契約内容ではないという点です。二十分という枠があることからも分かるとおり、申請書の書き方や必要な書類といった、手続に絞った質問が向いています。あらかじめ何を聞きたいのかを紙に書き出してから予約すると、限られた時間を無駄にせずに済みます。
また法務局は、登記申請手続は司法書士や土地家屋調査士に代理を依頼することができるとし、自身で手続することが難しい場合は依頼することを勧めています。つまり「自分で申請する」道と「専門家に代理してもらう」道の両方が用意されているということです。どちらを選ぶかで、後に述べる費用の内訳も変わってきます。
ここで、二つの資格の役割を分けて覚えておくと、見積もりを読むときに迷いません。不動産登記法第2条は、登記を「表示に関する登記」と「権利に関する登記」に分けています。前者は土地の地目・地積や建物の構造・床面積といった、不動産の物理的な状況を記録するものです。後者は同法第3条が挙げる所有権や抵当権などの権利についての登記です。
このうち表示に関する登記を担うのが土地家屋調査士です。土地家屋調査士法第3条第1項は、その業務として「不動産の表示に関する登記について必要な土地又は家屋に関する調査又は測量」と「不動産の表示に関する登記の申請手続又はこれに関する審査請求の手続についての代理」を挙げています。土地を分ける分筆の登記や、新築した建物の表題登記、取り壊した建物の滅失登記は、この領域にあたります。一方、司法書士法第3条第1項第1号は、司法書士の業務として「登記又は供託に関する手続について代理すること」を挙げています。表示に関する登記が土地家屋調査士の業務とされていることから、購入のときに出てくる所有権の移転登記や、住宅ローンの抵当権の設定登記といった権利に関する登記は、司法書士に依頼することになります。
ですから、費用を聞く先も分かれます。所有権の移転登記と抵当権の設定登記にいくらかかるのかは司法書士に、土地の測量や分筆、建物の表題登記にいくらかかるのかは土地家屋調査士に尋ねてください。見積書に「登記費用」とだけ書かれているときは、それがどちらの登記の話なのかを先に確かめると、金額の意味がはっきりします。
登録免許税は国税として国税庁で確かめる
登記をするときに国に納めるのが登録免許税です。国土交通省が土地の取得に係る税制を整理した資料では、登録免許税は「国税」と明記されています。国の税ですから、税率や軽減措置の内容を確かめる先は、市役所でも不動産会社でもなく国税庁です。国税庁は「登録免許税の税額表」を公開しており、土地や建物の所有権の移転・保存の登記などについて、登記の種類ごとの税率が示されています。
住宅用の家屋については、一定の条件のもとで税率を軽くする特例が設けられており、国税庁の税額表では令和九年三月三十一日までの間に取得した場合という期限とともに掲載されています。適用の条件は細かく、床面積や取得後いつまでに登記するかといった要件が関わってきます。自分の物件が当てはまるかどうかを見積書の数字から逆算するのではなく、税額表の該当欄を直接読んで、要件を一つずつ突き合わせるのが確実です。
そして忘れやすいのが、登録免許税と、司法書士に登記を代理してもらう場合の報酬は、まったく別のお金だということです。前者は国に納める税、後者は依頼した専門家に支払う費用です。見積書で「登記費用」と一括りに書かれていると区別がつきませんから、内訳として税と報酬を分けて示してもらい、報酬額そのものは依頼先の司法書士に確かめてください。
契約書の印紙税も国税庁の一覧表で確かめる
不動産の売買契約書には印紙税がかかります。国税庁の印紙税額の一覧表では、不動産売買契約書や不動産交換契約書、不動産売渡証書などが第一号文書として整理され、契約書に記載された契約金額の区分ごとに税額が示されています。ここも国税ですから、確認先は国税庁であり、個別の判断に迷うときの相談先は税務署になります。
さらに国税庁は、不動産の譲渡に関する契約書について、印紙税の軽減措置を設けていることを別のページで案内しています。そこでは、平成二十六年四月一日から令和九年三月三十一日までの間に作成される契約書のうち、契約金額が十万円を超えるものが対象になると説明されています。契約金額が十万円以下のものは軽減の対象外とされており、複数の不動産が記載される場合は合計金額で判定するとも書かれています。
印紙税は、契約書に記載された金額で決まる税です。したがって金額が確定するのは、売買代金が固まって契約書の案文ができた時点ということになります。逆に言えば、物件を探している段階では正確な額は出せません。概算として置いておき、契約書の案文を受け取った時点で一覧表の該当区分を自分でも確かめる、という順番が無理のない進め方です。
不動産取得税の確認先は都道府県
不動産を取得したことに対して課される税が、不動産取得税です。国土交通省が土地の取得に係る税制を整理した資料では、不動産取得税は「都道府県税」と明記されています。課税するのが都道府県である以上、金額の根拠や特例の適用について確かな答えを得られるのは、その不動産の所在地を所管する都道府県の税務担当部署、いわゆる県税事務所や都税事務所です。市役所に聞いても、この税については所管が違います。
住宅の取得については、国土交通省が不動産取得税に係る特例措置を住宅税制の一つとして掲げており、取得段階で利用できる税制特例として整理しています。ただし、要件を満たすかどうかの判断や実際の税額は、課税する都道府県が決めることです。国土交通省の資料は「どういう特例があるのか」を知る入口として使い、「自分の場合はいくらか」は都道府県に確かめる、という使い分けをしてください。
もう一つ、この税は納税通知書が手元に届く時期が、引き渡しからしばらく経ってからになることがあります。引っ越しが済んで落ち着いた頃に請求が来て驚く、という話は珍しくありません。資金計画を立てる段階で、いつ頃どこから通知が来るのかを都道府県の窓口に確かめておくと、あとで慌てずに済みます。
固定資産税と都市計画税は市町村に聞く
持ち続けるあいだ毎年かかるのが、固定資産税と都市計画税です。総務省の固定資産税の説明では、課税するのは市町村であり、ただし東京都の特別区については都が課税権を持つとされています。納税義務者は賦課期日である一月一日現在の所有者で、土地・家屋・償却資産が対象と整理されています。ですから、自分が買おうとしている物件について実際にいくらかかるのかを確かめる先は、その物件がある市町村(特別区であれば都)です。
都市計画税のほうは、総務省の説明によれば市町村が課税主体で、市街化区域内に土地や家屋を所有する人が納税義務者となり、市街化を促進すべき区域として都市計画で定められた区域内の資産が課税対象とされています。都市計画事業や土地区画整理事業に必要な費用に充てるための目的税と位置づけられています。つまり、物件の場所がその区域に入っているかどうかで、そもそもかかるかどうかが変わります。
土地や家屋の評価額は、課税する側が定めるものです。売主が受け取っている課税明細書を見せてもらえば前年の水準は分かりますが、それは前の所有者に対する課税の記録であって、あなたが来年いくら納めるかを約束するものではありません。特例の適用や評価替えによって変わりうるところですから、金額を見込みたいときは市町村の資産税を扱う窓口に確かめるのが筋です。
年の途中で買うときの精算は契約の話
固定資産税について、多くの人がつまずくのがここです。総務省の説明のとおり、納税義務者は賦課期日である一月一日現在の所有者です。年の途中で売買があっても、その年の納税義務者が買主に切り替わるという仕組みにはなっていません。市町村から届く納税通知書は、あくまでその年の一月一日時点の所有者に対して出されます。
では、引き渡し以降の分を買主が負担するという話はどこから出てくるのかというと、これは税の制度ではなく、売主と買主のあいだの取り決めです。つまり、売買契約書にどう書かれているかがすべてで、負担の起算日をいつに置くか、どう日割りするかは契約の内容によります。地域や当事者によって考え方が違うこともあります。
したがって、この項目の確認先は市町村ではありません。仲介する宅地建物取引業者と、契約書そのものです。重要事項の説明や契約書の条項で、精算の有無、起算日、計算の方法がどう定められているのかを読み、分からなければその場で説明を求めてください。市町村に「私はいくら払うのか」と尋ねても、契約の中身までは答えられない、という役割の線引きを覚えておくと迷いません。
媒介報酬は依頼する宅建業者に契約前に確かめる
仲介を頼んだ不動産会社に支払うのが媒介報酬、いわゆる仲介手数料です。国土交通省の消費者向けの案内では、宅地建物取引業者の仲介により不動産取引の契約が成立した場合に、その業者が仲介の依頼者から受領できる仲介手数料については、法律に基づく告示で上限額が定められていると説明されています。上限がある以上、言い値で決まるものではありません。
同じ案内では、仲介手数料の額について、契約後のトラブルを未然に防ぐために、宅地建物取引業者への仲介の依頼、すなわち媒介契約の締結に際して、あらかじめ、定められた上限額の範囲内で合意しておくことが重要だとされています。つまり確認先は依頼する不動産会社であり、確認するタイミングは媒介契約を結ぶときです。売買契約が成立してから金額の話を始めるのでは順番が逆になります。
上限額の具体的な計算方法や、空き家等にかかる特例の扱いについては、国土交通省の同じ案内に項目が設けられています。この記事では確認先の割り当てにとどめますので、計算の中身を知りたい場合はそちらを直接お読みください。会社に対しては、金額そのものよりも「どの根拠でこの額になるのか」を説明してもらうほうが、話がかみ合いやすくなります。
ローン関係の費用と保険料は契約先が定める
住宅ローンの事務手数料、保証会社に払う保証料、火災保険や地震保険の保険料も、購入のときにまとまって出ていくお金です。ただしこれらは、これまで見てきた税とは性格が違います。国土交通省が住宅に関わる税制を整理した資料では、取得段階の税制特例として住宅ローン減税や登録免許税・不動産取得税の特例が並び、保有段階として固定資産税の減額措置が挙げられていますが、事務手数料や保証料、保険料はそこに出てきません。税ではないからです。
税ではなく、金融機関や保険会社との契約に基づいて支払う費用ですから、金額を定めているのはそれぞれの契約相手です。したがって確認先も、官公庁ではなく、申し込もうとしている金融機関であり、加入しようとしている保険会社ということになります。同じ借入額でも会社によって扱いが違いうる部分なので、複数の候補から条件を示してもらい、内訳を並べて見るのが現実的です。
なお、住宅ローン減税のように、借入れに関係する税の制度もあります。こちらは所得税・個人住民税に関わるもので、国土交通省が住宅の取得段階に利用できる税制特例として掲げています。要件や手続の詳細は国税庁の案内で確かめ、判断に迷うときは税務署に相談する、という線で整理しておくとよいと思います。
いつ確定するかを段階ごとに押さえる
確認先が分かっても、聞くタイミングが早すぎれば確かな数字は返ってきません。項目ごとに、金額が固まる時点が違うからです。印紙税は契約金額が決まって契約書の案文ができたときに区分が定まります。媒介報酬は媒介契約を結ぶ時点で上限の範囲内で合意しておくものです。登録免許税は登記の内容が決まってはじめて計算できます。
不動産取得税は、取得したという事実が生じたあとに都道府県から通知が来ます。固定資産税と都市計画税は、賦課期日である一月一日の所有者に対して、その年の課税として市町村から通知されます。買主にとっての実際の負担は、契約でどう精算すると決めたかによって姿を変えます。この時間差を頭に入れておくと、「今すぐ総額を確定させたい」という焦りが少し和らぐはずです。
実務としては、物件を絞り込む段階では概算で資金計画を組み、契約の直前に、項目ごとの確認先へ順に問い合わせて数字を差し替えていくのが無理のない進め方です。全部を一度に確定させようとせず、確定した項目から埋めていく。そう考えれば、分からない欄が残っていること自体は不安の理由になりません。
見積書の読み方と、質問の組み立て方
不動産会社から諸費用の見積書を受け取ったら、まず一行ずつに「これは税か、手続の費用か、契約上の費用か」という印をつけてみてください。税であれば、国税なのか、都道府県税なのか、市町村の税なのかで確認先が決まります。手続の費用であれば、法務局に納めるものと専門家への報酬が混ざっていないかを見ます。契約上の費用であれば、相手方に直接尋ねるしかありません。
そのうえで、担当者にはこう尋ねると話が早くなります。この金額は概算か、確定額か。確定でないなら、いつ、誰が決めるのか。軽減措置を見込んでいるなら、どの要件に当てはまると考えているのか。この三つを押さえておけば、あとで金額が動いたときにも、なぜ動いたのかを自分で説明できます。
最後に、聞くことを遠慮しなくて大丈夫です。諸費用は、どれも制度や契約に根拠のあるお金で、根拠があるということは説明できるということです。説明を求めても曖昧な答えしか返ってこない項目があれば、その項目こそ、所管する官庁や契約相手に自分で確かめる価値があります。手間はかかりますが、納得して署名するための時間だと思えば、決して無駄にはなりません。
相談の前に確かめるチェックリスト
- 登記申請の進め方は、法務局の登記手続案内(完全予約制・一回二十分以内)で確認した
- 登録免許税の税率と住宅用家屋の軽減の要件は、国税庁の登録免許税の税額表で確認した
- 不動産取得税は都道府県税であることを踏まえ、物件所在地の都道府県の税務窓口に確認した
- 固定資産税・都市計画税は、物件所在地の市町村(特別区は都)の窓口に確認した
- 年の途中の精算の有無と起算日は、市町村ではなく売買契約書と宅地建物取引業者に確認した
- 媒介報酬の額と根拠は、媒介契約を結ぶ前に依頼先の宅地建物取引業者に確認した



