01

仲介手数料の上限は大臣告示で決まっている

不動産の売買や賃貸を不動産会社に仲介してもらったとき支払うお金は、法律の用語では「報酬」と呼ばれます。この報酬には、会社が自由に決めてよい金額ではなく、公に定められた上限があります。国土交通省の資料では、宅地建物取引業法において、宅建業者が媒介・代理の依頼者に請求できる報酬額に上限を設定していること、そしてそれが法第46条に基づく大臣告示によるものであることが説明されています。

その告示の正式な名前は「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」です。昭和四十五年十月二十三日建設省告示第千五百五十二号として定められ、その後何度か改正されてきました。告示の冒頭には最終改正として令和六年六月二十一日国土交通省告示第九百四十九号が掲げられ、その附則で令和六年七月一日から施行すると定められています。

つまり「仲介手数料の上限」は、業界の慣行でも各社の方針でもなく、条文の形で公表された文書に書かれています。ですから、見積の金額が妥当かどうかを考えるときは、感覚ではなく、この告示のどの規定を当てはめた結果なのかをたどれば確かめられます。以下では、その規定の骨格を順に見ていきます。

02

売買の媒介で受け取れる報酬の原則の計算

告示の第二は、売買又は交換の媒介に関する報酬の額を定めています。課税事業者である宅地建物取引業者が依頼者から受けることのできる報酬の額は、依頼者の一方につき、売買に係る代金の額を区分し、二百万円以下の金額に百分の五・五、二百万円を超え四百万円以下の金額に百分の四・四、四百万円を超える金額に百分の三・三を乗じて得た金額を合計した金額以内とされています。

ここで注意したいのが消費税の扱いです。告示は、報酬の額のほうには「当該媒介に係る消費税等相当額を含む」と書き、区分の基礎になる代金の額のほうには「当該売買に係る消費税等相当額を含まないものとする」と書いています。つまり料率を掛ける相手は税抜の代金で、出てきた上限額は税込の金額ということになります。この前後関係を取り違えると、見積の数字が合わない理由が分からなくなります。

代理の場合は第三が置かれ、依頼者から受けることのできる報酬の額は第二の計算方法により算出した金額の二倍以内とされています。ただし相手方からも報酬を受けるときは、その合計額が第二の計算方法で算出した金額の二倍を超えてはならない、と歯止めが書かれています。媒介と代理では上限の作り方が違う点も、覚えておくと見積を読みやすくなります。

03

低廉な空家等という八百万円以下の区分

告示の第七は「低廉な空家等の売買又は交換の媒介における特例」という見出しを持っています。ここでいう低廉な空家等とは、売買に係る代金の額、または交換に係る宅地若しくは建物の価額が、八百万円以下の金額の宅地又は建物をいう、と告示の条文そのものが定義しています。金額はいずれも消費税等相当額を含まないものとされています。

この特例では、宅地建物取引業者は、第二の規定にかかわらず、当該媒介に要する費用を勘案して、第二の計算方法により算出した金額を超えて報酬を受けることができます。ただし、その場合でも当該依頼者から受ける報酬の額は、三十万円の一・一倍に相当する金額を超えてはならない、と上限が重ねて書かれています。青天井になるわけではなく、別の天井に置き換わる仕組みだと理解してください。

代理については第八が対応しています。低廉な空家等の売買又は交換の代理で依頼者から受けることのできる報酬の額は、第三の規定にかかわらず、第七の規定により算出した金額の二倍以内とされ、相手方からも報酬を受ける場合はその合計額が第七により算出した金額の二倍を超えてはならないとされています。

なぜこうした区分が置かれたのかについて、国土交通省の資料では、空き家等の流通促進が課題となっている一方で、宅建業者が空き家等を取り扱うにはビジネス上の課題があることから報酬の上限を見直した、と説明されています。低額な物件でも現地調査や書類の整理にかかる手間は大きく変わらない、という事情が背景にあります。

04

対象は土地と建物、使用の状態は問われない

「空家等」という言葉が付いているため、誰も住んでいない家だけが対象だと読んでしまいがちですが、告示の第七の定義は「八百万円以下の金額の宅地又は建物をいう」と書いているだけで、空き家であることも、無人であることも要件にしていません。宅地、つまり土地も、建物と並んで対象に含まれています。

この点は国土交通省の資料でもはっきり示されています。「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」の改正内容を説明した資料では、売買・交換特例に係る「低廉な空家等」について、価格八百万円以下の宅地・建物であれば使用の状態は不問である、と明記されています。売主が住み続けている家や、事業に使われている建物であっても、代金額の要件を満たせば特例の対象になり得るという整理です。

したがって、「うちは空き家ではないのに空家等の特例が使われている」という違和感を持ったとしても、それだけで誤った適用だとは言えません。確かめるべきは、住んでいるかどうかではなく、代金の額が八百万円以下かどうか、そして後述する説明と合意の手続が踏まれているかどうかです。

05

賃貸の特例は別の規定で上限も異なる

同じ改正で、賃貸借についても特例が設けられましたが、これは売買の特例とはまったく別の規定です。混同すると金額の見当が大きくずれるので、分けて押さえてください。原則を定めるのは告示の第四で、貸借の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額の合計額は、借賃の一月分の一・一倍に相当する金額以内とされています。さらに、居住の用に供する建物の賃貸借では、媒介の依頼を受けるに当たって依頼者の承諾を得ている場合を除き、依頼者の一方から受けることのできる額は借賃の一月分の〇・五五倍以内とされています。

その特例が第九「長期の空家等の貸借の媒介における特例」です。ここでの長期の空家等とは、現に長期間にわたって居住の用、事業の用その他の用途に供されておらず、又は将来にわたりそれらの用途に供される見込みがない宅地又は建物をいう、と告示が定義しています。売買の特例とは対象の決め方がまるで違い、金額ではなく使われていない状態そのものが要件になっている点に注目してください。

第九では、借主である依頼者から受ける報酬の額が借賃の一月分の一・一倍(居住の用に供する長期の空家等では、承諾を得ている場合を除き〇・五五倍)に相当する金額以内である場合に限り、当該媒介に要する費用を勘案して、第四により算出した金額を超えて、借賃の一月分の二・二倍に相当する金額を超えない範囲内で報酬を受けることができるとされています。国土交通省の資料では、この上乗せについて、長期の空家等は媒介に要する費用を勘案して貸主である依頼者から原則による上限を超えて報酬を受領できる(一ヶ月分の二・二倍が上限)と記されています。貸借の代理については第十が置かれ、やはり借賃の一月分の二・二倍に相当する金額以内とされています。

長期の空家等の当てはめについては、通達の改正内容を説明した資料に考え方が示されています。「現に長期間にわたって居住・事業等の用途に供されていない」とは、少なくとも一年を超えるような期間にわたり居住者が不在となっている戸建の空き家や分譲マンションの空き室を指し、「将来にわたり供される見込みがない」とは、相続等により利用されなくなった直後で今後も所有者等による利用が見込まれないものを指す、という整理です。売買の特例と違い、こちらでは使われていない状態が問われます。

06

上限額と実際に請求される額は別のもの

ここがこの記事でいちばんお伝えしたいところです。告示が定めているのは「受けることができる報酬の額」であって、「請求しなければならない額」ではありません。条文の言い回しも一貫して「〜以内とする」「〜を超えてはならない」という形で、天井を示す書き方になっています。下限を定めた規定は置かれていません。

ですから、八百万円以下の物件だからといって、三十万円の一・一倍が自動的に請求されると決まっているわけではありません。第七も「当該媒介に要する費用を勘案して」第二の計算方法により算出した金額を超えて報酬を受けることができる、という書き方です。まず費用を勘案することが前提に置かれ、そのうえで上限の範囲に収まっていることが求められる構造になっています。

実際の金額は、上限の範囲内で依頼者と宅地建物取引業者が合意して決めるものです。国土交通省の資料でも、特例で定める上限の範囲内で媒介に要する費用を勘案して受領できるとしたうえで、媒介・代理契約の締結に際しあらかじめ報酬額について依頼者に説明し、合意する必要があることに特に留意する、と示されています。金額は説明と合意を経て決まるものであり、通知されて終わるものではない、という位置づけです。

同じ資料には、「当該媒介に要する費用」に相当する金額を上回る報酬も可、という記載もあります。実費をそのまま積み上げた額に固定されるわけではないという趣旨ですが、これも上限の範囲内での話です。上限・費用・合意された実額は、それぞれ別の層にある数字だと捉えておくと、見積の読み方を誤らずに済みます。

07

特例を使うときの事前の説明と合意

特例による報酬額は、契約を結ぶ前に説明を受け、納得したうえで合意するものとされています。国土交通省が改正の概要をまとめた資料には、媒介契約の締結に際しあらかじめ、上限の範囲内で報酬額について依頼者に対して説明し、合意する必要があることを「解釈・運用の考え方」(通達)に明記した、と書かれています。通達の改正内容を示した資料でも、媒介・代理契約の締結に際してあらかじめ説明し合意する必要があることに特に留意する、と同じ趣旨が置かれています。

手続の順序が「あらかじめ」と書かれている点は、実務上とても重要です。媒介契約を結んでしまってから、あるいは売買が成立した後に金額を聞かされる形は、この考え方が想定している姿ではありません。もし説明のないまま特例による金額が見積に載っていたら、どの規定を適用したのか、なぜその額になったのかを尋ねてよい場面だと考えてください。

なお、告示の第十一①は、宅地建物取引業者は第二から第十までの規定によるほか報酬を受けることができない、と定めています。ただし、依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額はこの限りでない、という例外が同じ条項に書かれています。依頼していない広告の費用まで当然に加算されるという規定ではない、と読める書き方です。

08

見積を受け取ったときに確かめること

見積書を開いたら、まず金額そのものより、どの規定を適用した数字なのかを確かめてください。原則である第二の料率計算なのか、低廉な空家等の第七なのか、媒介ではなく代理として第三や第八なのか。賃貸であれば第四なのか、長期の空家等の第九なのか。適用した規定が分かれば、上限の計算を自分でも追えます。

次に、その上限の中でなぜその額になったのかという内訳です。第七は媒介に要する費用を勘案するという書き方をしていますから、現地調査や書類の収集など、どういう手間を見込んだ金額なのかを説明してもらうのは自然な問いかけです。上限いっぱいの提示であれば、なおのこと理由を聞いておきたいところです。

消費税の扱いも確認しておきましょう。告示では、報酬の額のほうに消費税等相当額を含み、料率を掛ける代金の額には含めない、と定められています。また第十一②には、消費税を納める義務を免除される宅地建物取引業者について、第二から第十までに準じて算出した額に百十分の百を乗じて得た額などを合計した金額以内とする、という別の計算が置かれています。見積の金額が税込なのか税抜なのかは、最初に揃えておくと話が早くなります。

もう一点、仲介手数料とは別枠になり得るお金があることも知っておくと役立ちます。通達の改正内容を示した資料では、媒介契約との区分を明確にし、媒介契約とは別に書面等により締結した契約に基づいて報酬を受ける場合、宅地建物取引業法における報酬規制の対象とならない、という整理が示されています。空き家の管理や片付けといった関連業務がこれにあたります。見積に見慣れない項目があったら、それが媒介の報酬なのか、別契約に基づくものなのかを聞き分けてください。

相談の前に確かめるチェックリスト

  • 見積の金額が、告示のどの規定を適用したものかを説明してもらった
  • 売買であれば代金の額が八百万円以下かどうかを確かめた
  • 賃貸の特例と売買の特例を取り違えていないか、対象と上限を分けて確認した
  • 媒介契約を結ぶ前に、報酬額の説明を受けて合意したかを振り返った
  • 提示額が税込か税抜か、料率を掛けた代金が税抜かを揃えて確認した
  • 媒介の報酬と、別契約に基づく関連業務の費用が区別されているか確かめた
制度の一般的な考え方をまとめたものです。実際の取扱いは契約の内容や個別の事情によって変わります。判断が必要な場面では、不動産会社や専門家、行政の相談窓口にご確認ください。