なぜ「管理不全」という段階が設けられたのか
空き家の話題では、いきなり「特定空家」という強い言葉が出てくることが多いのですが、その手前に段階が設けられていることはあまり知られていません。国土交通省の資料によれば、現行法(平成26年制定)は緊急性に鑑みて、周囲に著しい悪影響を及ぼす空家である特定空家への対応を中心に制度的措置を定めており、特定空家になってからの対応には限界がある、という問題意識が示されています。
そこで令和5年6月14日に公布され、同年12月13日に施行された改正法では、空家の「活用拡大」「管理の確保」「特定空家の除却等」の三本柱で対応を強化することとされました。同資料は状態の変化を、空家の発生から管理不全へ、そして特定空家へと悪化していく流れとして図示し、その途中で悪化を防ぐこと、すなわち管理の確保を新たな柱に据えています。
この背景を知っておくと、制度の性格が見えてきます。管理不全という区分は、所有者を責めるためのものではなく、取り返しがつかなくなる前に手を打つために置かれたものです。ですから所有者の側も、指摘を受けてから動くのではなく、その手前で自分の家がどの位置にあるのかを把握しておくことに意味があります。
二つの区分は、どう違うのか
まず用語の確認です。法律上の正式な呼び名は「特定空家等」「管理不全空家等」で、いずれも末尾に「等」が付きます。根拠となる法律の名称も「空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)」です。報道や自治体の案内では「等」を省いた言い方も使われますが、条文を調べるときは「等」付きで探すほうが確実です。
空家法第2条第2項は特定空家等を、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にある空家等と定めています。四つ目の受け皿となる状態まで含まれている点が見落とされがちです。
一方、管理不全空家等は空家法第13条が扱う区分で、適切な管理が行われていないことによりそのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にある空家等を指します。国土交通省の資料も注記で特定空家等を「周囲に著しい悪影響を与える空家」と説明し、管理不全空家等を「放置すれば特定空家となるおそれのある空家」と位置づけています。つまり二つの区分は、いまの状態の深刻さが違うということです。
行政の関与の幅にも差があります。第13条は管理不全空家等について、市町村長が必要な措置をとるよう指導することができ、なお改善されない場合に修繕・立木竹の伐採などの具体的な措置を勧告することができる、としています。ここで止まり、命令や代執行は規定されていません。
これに対して特定空家等は第22条が扱い、助言又は指導、相当の猶予期限を付けた勧告、正当な理由なく勧告に従わない場合の命令、命令が履行されない場合に行政代執行法の定めるところによる代執行、という順序で段階が進みます。改正法では、緊急時に命令等を経ずに実施できる緊急代執行制度も創設されました。国土交通省の空き家対策の解説でも、管理不全空家は令和5年の改正により新設された区分であり、市区町村が指導や勧告を行うとされています。ここで取り違えたくないのは、行政代執行による強制的な除却まで進むのは、その空き家が特定空家等に当たると判断された場合だという点です。管理不全空家等の段階から直ちに代執行に移るのではなく、状態が悪化して特定空家等に該当すると判断され、そのうえで第22条の助言又は指導、勧告、命令と段階を踏み、正当な理由なく命令が履行されない場合にはじめて代執行の対象になります。
なお、これらの措置を行う主体はいずれも市区町村です。自治体によっては空き家に関する独自の条例や補助制度を設けていることがありますが、それは全国一律の空家法の仕組みとは別のものです。自分の家について具体的な判断を要するときは、法律の解説と自治体の条例・要綱を分けて確認してください。
勧告を受けると、何が変わるのか
所有者にとって最も具体的な影響が出るのが、勧告の段階です。国土交通省の資料は「勧告された空家は住居利用が難しく、敷地に係る固定資産税の住宅用地特例(1/6等に減額)は解除」と明記しています。同省の空き家対策の解説でも、勧告を受けると税負担の軽減措置(住宅用地特例)が受けられなくなると説明され、小規模住宅用地では1/6に減額、一般住宅用地では1/3に減額されるものが失われるとされています。
重要なのは、この特例除外が特定空家等だけの話ではないことです。東京都主税局の案内は「特定空家等」または「管理不全空家等」に該当し、賦課期日(1月1日)までに区からの勧告に対する必要な措置が講じられない家屋の敷地について、固定資産税・都市計画税の住宅用地に係る課税標準の特例の適用対象から除外される、としています。手前の区分である管理不全空家等でも、勧告まで進めば同じ効果が生じるということです。
もう一点、正確に押さえておきたいのは、要件が「勧告」とその後の対応であることです。空き家であること自体でも、区分に該当しただけでもありません。上記の案内の建て付けからは、勧告を受けても賦課期日までに必要な措置を講じれば除外されない、と読めます。逆に言えば、勧告を受けた年内に手を打てるかどうかが分かれ目になります。
なお、東京都主税局の案内は都内の区部を前提とした説明であり、勧告を行う窓口は各区役所、特例の扱いは各都税事務所とされています。措置を行う主体は市区町村ですから、実際の運用や相談先は自治体ごとに異なります。ご自分の空き家がある自治体の公式の案内を確認してください。
国が示している、管理の内容
では、具体的に何をすればよいのか。改正法では、国が「空家の管理指針」を告示することとされました。国土交通省の資料は、その内容として「定期的な換気、通水、庭木伐採等」を例示しています。一見ささやかな作業ですが、この三つが挙げられていることには理由があります。
換気は、閉め切った家に湿気がこもることで生じる傷みを防ぐための作業です。通水は、長く水を流さないことで排水トラップの水が蒸発し、臭気や虫の侵入を招くことを防ぐ意味があります。庭木の伐採は、伸びた枝が隣地や道路に張り出して迷惑になることを防ぐためのものです。いずれも、放置したときに周囲へ影響が出やすい部分から挙げられていることが分かります。
行政がどの状態をどう評価するかについては、国土交通省が「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針」を定めており、同省の空家法関連情報のページに掲載されています。同じページには、空家等対策の推進に関する特別措置法そのものや、空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針(平成27年総務省・国土交通省告示第1号)も並んでいます。これらは改正されることがありますので、実際に指導や勧告が視野に入る場面では、同ページで最新版を確認してください。
所有者に求められている責務
管理は好意で行うものではなく、所有者に求められていることでもあります。国土交通省の資料は、改正の内容として「所有者責務の強化」を掲げ、「(現行の『適切な管理の努力』に加え、)国・自治体の施策に協力する努力義務を追加」と説明しています。従来からあった適切な管理の努力に、自治体の施策への協力が重ねられた形です。
これは、自治体から連絡があったときに応じることも含意しています。改正法では、市区町村に所有者への報告徴収権を付与して勧告・命令等を円滑化することも盛り込まれました。連絡を無視していると、状況が把握されないまま次の段階に進む可能性がある、ということです。逆に言えば、早い段階で自治体と話ができていれば、事情を説明する余地があります。
相続放棄や所有者不明・不在の空家については、市区町村が裁判所に財産管理人の選任を請求し、修繕や処分を実施する仕組みも整えられました。所有者がはっきりしている場合はもちろんですが、家族のあいだで誰が管理するかが曖昧なまま放置されている家こそ、早めに担当を決めておく必要があります。
遠方に住んでいる場合、どう続けるか
管理の必要性は分かっていても、現地に通えないという事情を抱えている方は多いはずです。国土交通省の空き家対策特設サイトにある「空き家の管理のやり方」のページは「当面、空き家の除却や活用ができない場合には、適切な管理が不可欠です」としたうえで、「点検や補修に自信がない、遠隔地にお住まいなどでご自身による管理が難しい場合は、空き家管理業者や修繕業者などの利用を検討しましょう」と案内しています。
同じページでは、所有者が自分で状態を確かめるための「空き家管理チェックリスト」が配布されています。自分で通える場合でも、毎回その場の印象で見るのではなく、決まった項目を決まった順序で確認するほうが、変化に気づきやすくなります。写真を同じ角度で撮りためておくと、前回との違いが分かります。
外部に頼む場合は、何をどの頻度で行うのかを契約の内容として確かめてください。換気と通水だけなのか、庭木や外周の確認まで含むのか、報告は写真付きかどうか。ここを曖昧にしたまま任せると、費用は払っているのに状態が悪化していた、ということが起こり得ます。地域の不動産会社が管理の受託や紹介を行っている場合もありますので、相談先を探す際の選択肢に入れてみてください。
所有者向けの実務チェックリスト
最後に、確認の観点を実務の形でまとめます。まず建物の内側については、換気ができているか、水を流して排水口から臭気が上がってこないか、天井や壁に雨漏りの跡が出ていないかを見ます。国が示す管理指針が換気と通水を例示していることを踏まえると、この二つは最低限の定例作業と考えてよいでしょう。
次に建物の外側です。屋根材や外壁に外れ・ひび割れがないか、雨どいが詰まったり外れたりしていないか、窓ガラスが割れていないか。国土交通省の資料が管理不全空家のイメージとして「窓が割れた管理不全空家」を挙げていることからも、開口部の破損は外から状態が判断される分かりやすい要素だと分かります。
そして敷地の周りです。庭木の枝が隣地や道路に張り出していないか、雑草が繁茂していないか、塀や門扉が傾いていないか、郵便受けから郵便物があふれていないか。前述のとおり、特定空家等の定義には保安上著しく危険となるおそれ、衛生上著しく有害となるおそれ、著しく景観を損なっている状態、そして周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態が挙げられていますから、外から見える部分は特に意識して確かめてください。確認した内容と日付を記録に残しておけば、自治体から連絡があったときにも、きちんと管理してきたことを説明できます。
相談の前に確かめるチェックリスト
- 窓を開けて換気し、各所の水を流して排水の状態を確かめる
- 屋根材・外壁・雨どいの外れやひび割れ、窓ガラスの破損がないか外周を一周して見る
- 庭木の枝が隣地や道路に張り出していないか、雑草の繁茂がないかを確認する
- 塀・門扉の傾きと、郵便受けに郵便物があふれていないかを見る
- 確認した項目と日付、同じ角度の写真を記録として残しておく
- 自分で通えないなら、空き家管理業者等に何をどの頻度で頼むかを決めて契約内容を確かめる



