不動産の税は一つの窓口では完結しない
家を売る、相続する、買う。そのどの場面でも税の話は出てきますが、困るのは「結局どこに聞けばいいのか」が見えないことです。不動産の税は、国が課すものと、都道府県が課すもの、市町村が課すものに分かれています。さらに、登記のように税ではない手続も同じ場面で一緒に出てくるため、全部をひとまとめに「役所に聞く」と考えると、たらい回しになったような気分になってしまいます。
この記事では、金額の計算のしかたではなく、誰がどれを担当しているかという地図だけを描きます。地図さえ持っていれば、疑問が出たときに最初の一歩を間違えずにすみます。逆に、税額や特例の細かい要件は、各窓口や国税庁の公開資料で確かめるほうが確実です。ここでは要件の詳細には立ち入りません。
整理のしかたは、納め方ではなく税目で分けるのが確実です。国の税(国税)にあたるのは、売った利益にかかる所得税(譲渡所得)、相続税、登記のときに納める登録免許税、契約書に貼る印紙税で、窓口は国税庁と税務署です。都道府県の税にあたるのが不動産取得税で、窓口は都道府県税事務所(東京都では都税事務所)です。市町村の税にあたるのが固定資産税と都市計画税で、窓口は市役所・町村役場です(東京23区内は都が課税します)。そして登記の手続そのものは税ではなく、法務局が担当します。以下、それぞれを順に見ていきます。
「申告するのが国税、通知が届くのが地方税」と覚えると、かえって間違えます。たとえば不動産取得税は都道府県の税ですが、東京都は取得した日から30日以内に都税事務所等へ申告するよう案内しています。納め方ではなく、どの税目かで聞く先を決めてください。
国税庁と税務署が受け持つ不動産の税
国税庁が公開しているタックスアンサーをたどると、不動産にかかわる国税がいくつも並んでいることが分かります。土地や建物を売ったときの譲渡所得については「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」があり、譲渡所得の金額は売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算すると説明されています。居住していた家を売ったときの特例についても「No.3302 マイホームを売ったときの特例」があり、適用を受けるには一定の書類を添えて確定申告をすることが必要だと書かれています。
相続についても同じです。「No.4102 相続税がかかる場合」には、相続税の申告および納税の期限が、被相続人の死亡したことを知った日の翌日から10か月以内であると記されています。期限が決まっている以上、迷っている時間そのものが負担になります。早めに国税庁のページで全体像をつかみ、分からない部分を税務署に尋ねるという順番が現実的です。
契約書に貼る印紙も国税です。「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)」では、不動産の譲渡に関する契約書が第1号文書にあたるとされ、不動産売買契約書や不動産交換契約書が具体例として挙げられています。売買契約の場で当たり前のように出てくる印紙が、実は国税だと知っておくと、疑問が出たときの行き先に迷いません。
税務署にどうやって尋ねればよいか
国税庁の「税についての相談窓口」では、税についての質問にはチャットボットやタックスアンサー、e-Taxヘルプデスクのよくある質問が利用できると案内されています。まず自分で調べる手立てが整えられている、ということです。書かれている内容が自分の事情に当てはまるかどうかを読むだけでも、ずいぶん見通しが立ちます。
そのうえで人に尋ねたいときは、同じページに電話相談センターの案内があります。国税庁の案内では、専用の番号として0570-00-5901が示され、受付時間は平日の8時30分から17時00分、年末年始は休止すると記されています。最寄りの税務署に連絡するという方法も併せて案内されています。
尋ねるときのこつは、質問を「一般的にはどう取り扱われますか」という形にしておくことです。役所の窓口は、法令や通達にもとづく一般的な取扱いを説明することはできますが、あなたの事情に合わせて有利不利を比べて提案する立場ではありません。この線引きは、あとで触れる専門家との役割分担にもつながります。
法務局が受け持つのは税ではなく登記
不動産の名義や権利の記録は、登記という手続で管理されています。これは税ではありません。法務局の「不動産登記申請手続」のページには、不動産の所有者が亡くなった場合、住宅ローン等を完済した場合、転勤等で引っ越したり氏名が変わった場合、建物を取り壊した場合といった場面ごとに、申請の方法や申請書様式の案内がまとめられています。
自分で申請したいけれど書き方が分からない、というときのために、法務局は登記手続案内という仕組みを設けています。法務局の説明では、登記手続に関する専門的な知識をお持ちでない方に対して、登記申請書の作成等に必要な情報の提供を行うもので、利用時間は1回あたり20分以内、完全予約制とされています。電話、法務局の窓口での対面、ウェブ会議サービスのいずれかを希望に応じて選べるとも案内されています。
なお、同じ案内の中で、登記申請は司法書士や土地家屋調査士に代理を依頼することができるとも示されています。自分でやるか、代理を頼むかは選べる、ということです。いずれにしても、手続の進め方そのものの相談先は法務局だと覚えておくと迷いません。
相続登記は申請が義務になっている
登記の中でも、相続にかかわるものは扱いが変わりました。法務省の「相続登記の申請義務化について」によれば、相続登記の義務化は令和6年(2024年)4月1日から始まっており、相続人は不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をすることが法律上の義務になっています。正当な理由がないのに相続登記をしない場合には、10万円以下の過料が科される可能性があるとも説明されています。
施行日より前に起きた相続も対象から外れているわけではありません。法務省の説明では、施行日以前の相続については令和9年(2027年)3月31日までに相続登記をする必要があるとされています。「昔の相続だから関係ない」と考えていた土地や建物がある方は、一度確認しておいたほうが安心です。
遺産分割が後からまとまった場合についても、その日から3年以内に、内容を踏まえた所有権移転登記の申請が義務づけられていると案内されています。期限が絡む話ですので、書き方が分からないという理由で止まってしまう前に、法務局の登記手続案内を予約してしまうのが結果的に近道になることが多いと思います。
登録免許税は国税、手続は法務局という重なり
ここが混同しやすいところです。登記の申請をするときには登録免許税を納めます。国税庁のタックスアンサー「No.7191 登録免許税の税額表」に掲げられているとおり、これは国税です。つまり、手続そのものの所管は法務局ですが、そこで納める税の根拠は国税の側にある、という二重構造になっています。
実務の感覚としては、申請書の書き方や添付書類のそろえ方は法務局に尋ね、税額の考え方や軽減の取扱いが自分の場合にどうなるかは国税庁の資料や税務署、あるいは税理士に尋ねる、という分け方になります。窓口で「それはうちではありません」と言われたときも、意地悪をされているのではなく、この線引きにしたがって案内されているのだと分かれば、気持ちの負担が少し減ります。
なお、登録免許税には軽減の仕組みが設けられている場合があり、その内容は時期によって変わることがあります。この記事では税率や適用条件までは扱いません。実際に納める額を知りたいときは、国税庁の税額表の該当箇所を見たうえで、自分のケースに当てはまるかを窓口で確かめてください。
固定資産税と都市計画税は市町村の担当
毎年届く納税通知書でおなじみの固定資産税は、地方税です。東京都主税局の案内では、固定資産税は固定資産を所有している方にかかる市町村税であり、多摩・島しょ地域にある固定資産については市町村が課税するが、23区内にある固定資産については都が都税として課税している、と説明されています。東京23区だけが例外的な形になっている点は、知らないと問い合わせ先を間違えます。
同じ案内では、問い合わせ先として、23区内は都税事務所、23区以外は市役所・町村役場と示されています。つまり、自分の不動産がどこにあるかによって窓口が変わります。評価額がどう出ているのか、課税明細書のこの欄は何なのか、住宅が建っている土地の軽減が適用されているのか。こうした確認は、課税している自治体に直接尋ねるのがいちばん確実です。
ここで大事なのは、自治体ごとに評価や減免の運用が異なるということです。よその市の説明ページを読んで自分の市も同じだと考えると、行き違いが起きます。都市計画税がかかるかどうかも地域によって違います。調べるときは、必ず自分の不動産の所在地を課税している自治体の案内を見てください。
不動産取得税は都道府県の税事務所へ
買ったり建てたりしたしばらく後に、思いがけず届いて驚かれるのが不動産取得税です。これは固定資産税とは別の税で、課税するのは都道府県です。東京都主税局の案内では、土地や家屋の購入、贈与、家屋の建築などで不動産を取得したときに、取得した方に対して課税される税金だと説明されています。
手続の面でも固定資産税と違います。東京都の案内では、取得した日から30日以内に、土地・家屋の所在地を所管する都税事務所(都税支所)・支庁に申告してくださいと示されており、問い合わせ先も所管の都税事務所等とされています。東京都以外の道府県でも、県税事務所など都道府県の出先機関が窓口になるのが通例ですので、自分の不動産のある都道府県の案内を確認してください。
軽減の仕組みが設けられていることもありますが、その内容や申告の要否は都道府県によって案内が異なります。この記事では立ち入りませんので、納税通知や申告について不安があるときは、所在地を所管する都道府県の税事務所に尋ねるのが最短です。
役所に聞けること、専門家に頼むこと
ここまで見てきた窓口は、いずれも一般的な取扱いを説明してくれる場所です。ただ、実際に困るのは「自分の場合はどうなるのか」「二つの方法のどちらが有利か」という一歩先の問いであることが多いものです。この領域は、役所の窓口に期待する種類の答えではありません。
税については、国税庁のタックスアンサー「No.9203 税理士制度について」に、税理士業務が税務代理、税務書類の作成および税務相談の業務であること、そしてこれらの業務を行うことができるのは、税理士、税理士法人、国税局長に通知をした弁護士および弁護士法人に限られていることが記されています。つまり、あなたの代わりに申告書を作ったり、税務署に対して代理で主張したりできるのは、資格のある人だけです。インターネットの記事や知人の体験談は、この役割を担えません。
登記についても、法務局は申請書の作成に必要な情報を提供しますが、代理を引き受けるわけではありません。法務局の案内でも、登記申請は司法書士や土地家屋調査士に代理を依頼することができると示されています。自分で進めるのが難しいと感じたとき、専門家に頼むのは遠回りではなく、期限のある手続では現実的な選択です。
問い合わせる前に手元でそろえるもの
どの窓口に尋ねるにしても、手元に資料があるかどうかで話の進み方がまったく変わります。固定資産税のことなら、届いている納税通知書と課税明細書。登記のことなら、登記事項証明書または権利証にあたる書類。売却の税のことなら、買ったときの売買契約書や領収書、売ったときの契約書。相続なら、亡くなった方と相続人の関係が分かる戸籍関係の書類です。
そのうえで、聞きたいことを一文にまとめておくと、短い相談時間でも要点にたどりつけます。たとえば「この土地の住宅用地の軽減が適用されているかを確認したい」「相続で名義を変えるときの申請書に何を添えるのかを知りたい」といった形です。法務局の登記手続案内は1回20分以内という枠が示されていますから、あらかじめ絞っておくことが役に立ちます。
そして、答えをもらったらメモに「どこの誰に聞いたか」を書き添えてください。不動産の話は窓口が複数にまたがるので、後から「これは税務署の説明」「これは市役所の説明」と区別できるだけで、混乱がずいぶん減ります。地図を持って歩けば、同じ道を二度たどらずにすみます。
相談の前に確かめるチェックリスト
- 売却益や相続の申告は税務署に聞く、と整理できた
- 契約書の印紙と登録免許税は国税だ、と整理できた
- 登記の申請書の書き方は法務局に聞く、と整理できた
- 固定資産税・都市計画税は課税している市町村(23区内は都)に聞く、と整理できた
- 不動産取得税は都道府県の税事務所に聞く、と整理できた
- 自分の事情での有利不利や代理申告は資格のある専門家に頼む、と整理できた



