選択肢を三つに分けて並べてみる
空き家をどうするかという問いは大きすぎて、そのままでは答えが出ません。まず、取りうる道を並べて名前を付けるところから始めます。大きく分けると、第一に売却や譲渡によって他の人に引き継ぐ道、第二に相続土地国庫帰属制度によって国に引き取ってもらう道、第三に手放さずに保有を続けて管理する道です。貸すという道もありますが、それは保有を続けながら収益を得る形なので、第三の道の一種として考えると整理しやすくなります。
この三つは、並列に選べるわけではありません。それぞれに入口の条件があり、条件を満たさない道は最初から消えます。そして厄介なことに、消える理由は物件ごとに違います。建物が残っているかどうか、土地をどう取得したか、共有者がいるかどうか、管理を続けられるかどうか。この記事では、その分かれ目になる条件を先に押さえます。
どの道が現実的かは、物件の条件によって変わります。どれか一つを最初から本命に据えるのではなく、それぞれの入口の条件と、かかる費用・時間を並べたうえで比べてください。売れないと決めつける前に確かめるべきことがありますし、売れないときに第二の道が本当に使えるのかも条件次第です。順に見ていきます。
建物があるかどうかが、最初の分かれ目
選択肢を絞り込むうえで、最も効く条件が建物の有無です。相続土地国庫帰属制度について、法務省は却下事由として建物がある土地を挙げています。さらに同制度のQ&Aの第7のQ2では、建物の登記がされていなくても、現に建物が存在する場合は承認申請することができないとされています。登記簿に建物が載っていないから通るだろう、という考え方は通りません。
では取り壊せばよいのか。Q&Aの第7のQ4は、建物は取り壊した上で承認申請をしなければならないのかという問いに対し「原則はそのとおりです。」と答えています。つまり国に引き取ってもらうという道を選ぶなら、解体という工程と費用が前提に組み込まれます。
ここが判断の要になります。解体費用を負担するのであれば、その費用をかけて更地にしたうえで売却を目指す道も同時に見えてきます。更地にしたほうが買い手がつきやすい土地もあれば、建物付きのまま引き受けてくれる相手がいる土地もあります。どちらが良いかは場所と状態によって変わるため、解体を決める前に、地域の事情を知っている相手に一度聞いてみる価値があります。
国に引き取ってもらう道の、入口の条件
第二の道について、もう少し条件を確かめます。この制度は令和5年4月27日から始まったものです。法務省は、相続土地国庫帰属制度は「相続又は相続人に対する遺贈によって土地を取得した方が申請可能です」としています。自分で買った土地は対象外です。一方で、施行前の相続も対象とされ、数十年前に相続した土地についても本制度の対象となる、と明記されています。
共有の場合は、法務省は「共有者の全員が共同して申請を行うことによって、本制度を利用することができます」としており、Q&Aでは共有者のうち誰かの同意が得られない場合にはその土地について承認申請をすることはできないとされています。相続の結果として兄弟姉妹の共有になっている空き家では、この点が実務上の壁になりがちです。
土地そのものの条件もあります。法務省は却下事由として、担保権や使用収益権が設定されている土地、他人の利用が予定されている土地、土壌汚染されている土地、境界が明らかでない土地や所有権の存否・範囲について争いがある土地を挙げ、不承認事由としては、一定の勾配・高さの崖があって管理に過分な費用・労力がかかる土地や、隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地などを挙げています。条件が細かいぶん、事前の確認が欠かせません。
国に引き取ってもらうときに、かかるもの
費用と時間の見通しも、比較には欠かせません。法務省は「審査手数料の金額は、土地一筆当たり14,000円となります」としたうえで、手数料納付後は、申請を取り下げた場合や審査の結果却下・不承認となった場合でも返還できないとしています。一筆当たりという単位なので、複数の筆に分かれている土地では手数料も積み上がります。
承認された後には負担金があります。法務省は、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定した額の負担金を納付しなければならないとしており、納付期限は負担金の通知が到達した日の翌日から30日以内とされています。期限内に納付されない場合は国庫帰属の承認が失効するとされているため、通知が来てから慌てないよう資金の準備が要ります。
負担金の額は土地の種目と所在によって変わります。法務省の案内では、宅地は原則として面積にかかわらず20万円ですが、市街化区域または用途地域が指定されている地域にある宅地は、面積に応じて算定するとされています。田や畑も原則20万円で、農用地区域内などの一定の農地は面積に応じた算定になり、森林は面積に応じて算定するとされています。つまり、20万円で済むかどうかは土地の場所と地目次第であり、市街地の宅地ほど20万円では収まらない可能性があります。自分の土地がどの区分に当たるかは、都市計画の指定状況を先に調べておくと見通しが立ちます。
所有権が移る時点も押さえておきましょう。法務省は、負担金が納付された時点で土地の所有権が国に移転するとしています。承認された時点ではありません。加えて、Q&Aは標準処理期間を8か月とし、事案によってはこれを超える場合もあるとしています。売却と比べたとき、この制度は費用も時間もかかる道だという前提で並べてください。
持ち続けるという道に、何がついてくるか
第三の道、つまり手放さずに保有を続けるという選択も、れっきとした選択肢です。将来の家族の利用や、地域の事情を考えて残す判断には理由があります。ただし、持ち続けることには管理という責任がついてきます。
国土交通省の資料によれば、令和5年6月14日に公布され同年12月13日に施行された空家等対策の推進に関する特別措置法の改正では、所有者責務の強化として、現行の「適切な管理の努力」に加え、国・自治体の施策に協力する努力義務が追加されました。同資料は、放置すれば特定空家となるおそれのある空家を管理不全空家と呼び、市区町村が指導・勧告を行うこと、そして勧告された空家は敷地に係る固定資産税の住宅用地特例が解除されることを示しています。
つまり、持ち続けるという選択は「何もしない」ことと同じではありません。管理を続ける前提での選択です。管理を続けられる見通しが立たないのであれば、それは実質的には第三の道が選べていない、ということになります。ここを正直に見積もることが、家族の話し合いでいちばん大切な作業かもしれません。
売れるかどうかを、先に確かめる
三つの道を並べたうえで、検討の順番を提案します。まず、売却の可能性を確かめてください。他の道を先に進めてしまうと、後から買い手が見つかっても引き返せないことがあるからです。ただし、売却なら費用がかからないという意味ではありません。仲介の報酬や登記に関する費用、譲渡益が出た場合の税など、差し引かれるものがあります。ですから確かめたいのは査定額そのものではなく、そこから諸費用と税を差し引いた手残りがいくらになりそうか、という見込みのほうです。その手残りの見込みと、国に引き取ってもらう道でかかる解体費用・審査手数料・負担金、そして持ち続ける道でかかる管理の費用と固定資産税とを、同じ表に並べて比べられる形にしておいてください。
自分で確かめられる手がかりもあります。国土交通省の不動産情報ライブラリでは、不動産の取引価格、地価公示等の価格情報や防災情報、都市計画情報、周辺施設情報等を地図上で見ることができます。周辺でどのくらいの取引が行われているのかを眺めるだけでも、まったく取引のない地域なのか、それなりに動いている地域なのかが分かります。
ただし、そこにある数字は査定額でも成約の保証でもありません。地図に取引の表示が少ないからといって売れないと決めつけるのは早計ですし、逆に近くに高い取引があったからといって同じ条件になるわけでもありません。あくまで、相談に行く前の目安として扱ってください。
自分の物件で、どの道が残るかを書き出す
最後に、比較の作業を具体的にします。紙でも画面でもかまいませんので、三つの道を縦に並べ、それぞれの横に「この物件では選べるか/選べないか/条件付きで選べるか」を書いてみてください。国庫帰属の欄には、建物の有無、取得の経緯、共有者の同意、境界の状態を条件として書き添えます。保有継続の欄には、誰がどの頻度で管理するかを書きます。売却の欄には、いま分かっている価格の手がかりを書きます。
書き出してみると、多くの場合は選べる道が一つか二つに絞られます。絞られた時点で、家族の話し合いは「どれにするか」ではなく「残った道をどう進めるか」に変わります。これは大きな前進です。
この記事で扱ったのは選択肢の枠組みで、それぞれの制度の細かい要件や、管理の具体的なやり方は別の記事に譲ります。まずは自分の物件でどの道が残るのかを見極め、そのうえで残った道について詳しく調べる、という順序で進めてください。地域の不動産会社に相談するときも、この一覧を持っていくと話が早く進みます。
相談の前に確かめるチェックリスト
- 建物が現に存在するかを確認し、国庫帰属が選べるかどうかを判断する
- その土地を相続または相続人への遺贈で取得したかを確かめる
- 共有名義なら、共有者全員が同じ方向で動けるかを先に確認する
- 登記事項証明書で筆の数を数え、手数料が何筆分になるかを把握する
- 不動産情報ライブラリで周辺の取引価格を見て、売却の可能性を探る
- 査定額ではなく、諸費用と税を差し引いた手残りの見込みで他の道と比べる
- 持ち続ける場合、誰がどの頻度で管理するかを具体的に決められるか確かめる
- 土地が市街化区域や用途地域の指定内かを調べ、負担金が原則20万円か面積算定かを見当づける



